執筆:歯科医師 河合良治
失ってしまった歯を補うために歯科治療として選択されるのが、入れ歯やブリッジそしてインプラントです。インプラントは審美的にも機能的にも優れていることから近年多くの方に選ばれる治療法になってきています。
しかしインプラントは外科治療になるため、リスクがあるのも事実です。中にはインプラントを入れてからお口の症状が悪化したと感じる方もいるようです。
今回はインプラントを入れて症状が悪化してしまう原因や対処法についてお話ししていきます。
インプラントでお口の症状が悪化する原因
インプラントは顎の骨にインプラント体を埋入し、インプラント体と骨を結合させてご自身の歯のように使っていただく補綴物です。
治療には外科処置が必要となり、インプラント治療後にお口の症状が悪化したという方がまれにいらっしゃいます。ここでは悪化しやすいお口の症状とその原因についてお話ししていきます。
インプラント周囲炎
インプラントを入れた後に、インプラントの周りに炎症を起こし出血や違和感などの症状が悪化することがあります。これは「インプラント周囲炎」と呼ばれ、インプラント周りで起こる歯周病です。
通常の歯と同じように埋入したインプラント体と骨の間には隙間があります。その隙間で歯周病菌など悪い細菌が増殖してしまうことで、炎症を起こしてしまうのです。
症状が悪化すると、出血や歯ぐきの違和感、インプラントがぐらつきはじめ、最終的には抜け落ちてしまう怖い状態です。
元々歯周病を持っている方、お口の中に細菌の数が多い方、インプラント埋入後にホームケアや歯科医院でのメンテナンスを怠っていると起こりやすい症状です。
参考:日本口腔インプラント学会
上顎洞炎・蓄膿症
上顎のインプラントをする際にリスクとして挙げられることが、上顎洞へとインプラントが貫通してしまうことです。上顎洞は鼻の奥あたりにある骨の空洞のことで、上顎の歯の根っこから近い部分に位置するため、インプラント埋入の際には気をつけて行う必要があります。
万が一インプラントが上顎洞を貫通してしまうと、上顎洞内で炎症が起こり「上顎洞炎」や「蓄膿症」を発症することがあります。歯が痛い、鼻の周りに違和感を感じる、頭痛や頬の痛みなどの症状が続く場合は注意が必要です。
これらの症状が悪化してしまうと、髄膜炎や脳腫瘍などにも繋がってしまうため早期の治療が必要になります。
上顎洞炎を発症してしまった場合、まずは抗菌薬によって炎症を抑える処置をとり、重篤であればインプラントの撤去や上顎洞根治手術等の処置を行なっていきます。
上顎洞への貫通が起きないようにインプラント手術を行う前にCT撮影やレントゲン撮影でしっかりと上顎洞までの距離を把握しておくことが重要です。
インプラント治療後の傷口悪化
インプラント治療後に傷口の治癒が進まず、痛みや排膿などの症状が出ることがあります。これには患者さんの体質や傷口からの細菌感染、免疫力が低くなっている、不衛生な口腔内など様々な理由があります。
インプラントを入れた後に、痛みが引かない、熱を持っている状態が続く、膿が出るなどの症状が続く場合はすぐに歯科医師に相談しましょう。症状が悪化してしまうと埋入したインプラント体が抜けてしまうこともありますので、早めに抗生物質の服用などの対処が必要です。
インプラント後の症状悪化を防ぐために
ここではインプラント後にお口の症状が悪化しないよう気をつけてほしいことをご紹介します。
適切なホームケア
インプラント治療後、傷口の状態が治癒したら患者さんにはホームケアに力を入れていただくことでトラブルを防ぐことができます。
特にお口の中の悪い細菌数を減らすためにも、プラーク(歯垢)を効率的に除去することが重要です。通常の歯磨きに加えて、フロス(糸ようじ)、歯間ブラシ、タフトブラシを併用して細かいところまで磨くようにしましょう。
特にインプラント周りは汚れが溜まりやすく、歯ブラシだけでは汚れを落とし切ることができません。何を使っていいのかわからないという方は歯科医院でおすすめのケアグッズなどを教えてもらうといいでしょう。
処方された薬の正しい服用
インプラントの治療は外科手術になるため、出血を伴います。感染のリスクも高くなるため、抗生物質は処方された分全て飲み切るようにしましょう。
絶対にご自身の判断で服用を中断をしないようにしてください。
痛み止めに関しては痛みがある場合に服用し、痛みがない場合は無理に服用しなくても大丈夫です。逆に痛みが強い場合は我慢せずに痛み止めを服用してくださいね。
定期的な歯科医院でのメンテナンス
インプラント周囲炎などのトラブルを防ぐためにも、インプラント後は3ヶ月〜半年に1回は必ず歯科医院でメンテナンスをしてもらいましょう。
歯科医院でのメンテナンスでは、レントゲン撮影や歯科医師によるチェックでインプラントに問題がないか確認し、プロによるクリーニングを行います。
自分では気付けないトラブルにも気づくことができるため、早期発見・早期対処にも繋がります。
まとめ
今回はインプラント後に症状が悪化してしまう原因や対処法についてお話ししました。インプラントは外科治療になるため、治療後に症状が悪化してしまうリスクがあります。
患者さん側でもこのような状態にならないように防ぐこともできますので、お話しした3つのことをしっかりと守ってインプラントを長持ちさせましょう。
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