執筆:歯科医師 河合良治
歯を失ってしまった場合に入れ歯やブリッジにつぐ第三の治療法として選択されているのが「インプラント」です。
インプラントは外科処置が必要になる治療で、インプラントを埋入した後に感染を起こすリスクがあるといったことを耳にした方もいるかもしれません。
今回はインプラントと感染について詳しくお話ししていきますので、ぜひ参考にしてみてください。
インプラント後に感染症が起きる?
結論から言いますと、インプラントの外科処置後に感染症が起きる確率は少なからずあるのが事実です。
これはインプラントだけに限らず、抜歯や他の外科処置にも言えることです。しかし、インプラント特有の感染症などもありますのでインプラント治療を考えている方は事前にしっかりとリスクを理解しておくことが大切です。
インプラント後に起こりやすい感染症
まずどうしてインプラント後に感染が起こることがあるのか?について理解しておきましょう。私たちの天然歯には、歯髄(しずい)と呼ばれる組織が歯の中に存在します。
歯髄には血管や神経が通っており、常に歯に栄養を与えながら細菌からの攻撃にも備えることができます。しかし、インプラントは人工物で血液共有もありませんので、細菌など外部からの攻撃に抵抗しにくいことで感染が起こりやすくなります。
以下でインプラント処置後に起こりやすい感染症を紹介します。
術後感染症
術後感染症とは、手術後の経過が適切でない場合に傷口から細菌が侵入し感染症を引き起こすことがあります。
どの手術にも術後感染症のリスクはありますが、原因としては院内の衛生管理や患者さん自身の免疫力、口腔内細菌によるものなどさまざまです。
術後感染症を起こしてしまった場合は手術後の指示に従い、適切な薬物療法を行うことが重要です。
インプラント周囲炎
インプラント周囲の組織が炎症を起こす状態です。進行すると重度の歯周病のように感染に進展することがあります。
インプラント埋入後には、天然歯と同じようにインプラントと歯ぐきの間にポケットがあります。そのポケットの間で歯周病細菌が増殖してしまうことでインプラント周囲炎を発症し、進行するとインプラント周りの骨が溶け最終的にはインプラントごと抜けてしまうといったリスクがあります。
日本歯周病学会ではインプラント治療後3年以上の患者267人を調べたところ、約1割の患者がインプラント周囲疾患になっていたことが報告されています。
参考:日本臨床歯周病学会
インプラント周囲炎になってしまう原因としては、インプラント治療後に適切な口腔ケアが行われていないこと、もともと中度〜重度の歯周病にかかっており口腔内に歯周病菌が多く存在すること、定期的な歯科医院でのメインテナンスに通っていないなどさまざまです。
インプラント後の感染を防ぐためには
適切な口腔ケア
感染症を防ぐために最も重要なことは患者さん自身による適切な口腔ケアです。インプラント周囲の歯ぐきや歯を清潔に保つことが重要です。歯ブラシ、歯磨き粉、フロス、マウスウォッシュなどを適切に使用して、細菌の繁殖を防ぎましょう。
インプラント後の口腔ケアについては歯科医院でも指導してもらえます。患者さん一人ひとりにあった適切な清掃用具などについても教えてもらえますので、積極的に聞いてみましょう。
定期的な歯科検診
インプラント治療後は定期的なメインテナンスが必須になります。歯科医による定期的な検診を受けることで、早期に問題を発見し対処できます。
また、定期的なクリーニングやレントゲン検査も感染の予防になりますので、3ヶ月に一回は歯科検診に通いましょう。
手術後のケア
インプラント手術後は術後の感染を防ぐためにも歯科医師の指示に従って、適切な傷口ケアを行いましょう。口腔内を清潔に保ち、抗生物質や炎症を抑える薬を処方された場合は指示通りに服用してください。
禁煙
インプラントとタバコは非常に相性が悪いことで知られています。喫煙は口内の血行を悪化させ、感染リスクを増加させる可能性があります。
インプラントの手術後は特に喫煙を避けるように心掛けましょう。
タバコを元々吸っている方でインプラント治療をお考えの方は治療前にタバコの本数を減らしていくなど、禁煙に向けての努力が必要になります。
参考:日本歯周病学会
健康な生活習慣
感染症を予防するには充分な栄養を摂り、免疫機能を維持することも重要です。健康的な生活習慣は感染症に対する免疫力を向上させインプラント後の感染症を防いでくれる効果があります。
インプラントをお考えの方はカウンセリングを
インプラントはご自身の歯のように使っていただける非常に便利なものですが、残念ながら誰でも治療ができるという訳ではありません。
インプラント後に感染症のリスクが高い患者さんには事前にしっかりとカウンセリングを行い、インプラントを入れるために生活習慣や口腔内の環境を変えていく必要もあります。
インプラント治療を考えている方は事前にしっかりと歯科医師のカウンセリングを受けるようにしましょう。「インプラントをして後悔した!」とならないためにも、メリットやデメリットについて理解しておくことも重要です。
まとめ
今回はインプラントと感染についてお話ししました。インプラント治療は外科処置ということもあり、少なからず感染症のリスクもあります。
特に多いのが術後感染症やインプラント周囲炎です。これらは医院側の感染対策だけでなく、患者さん自身による口腔ケアなども大事になってきます。
インプラント治療をお考えの方は、しっかりインプラントのリスクも理解して歯科医師と相談していくことをおすすめします。
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