執筆:歯科医師 河合良治
口が開けられない、口を開けるたびにポキポキと音がなるなどの症状に悩まされている場合は「顎関節症」の恐れがあります。顎関節症は、悪化すると食事もままならなくなってくるため、早めの対処が必要です。
しかし、中には自己流で顎関節症の対応をしてしまう方がいますが、時には悪化してしまう原因になるため注意が必要です。
今回は顎関節症になってしまった際にやってはいけないことについてお話ししていきますので、ぜひ参考にしてみてください。
顎関節症とは?
まず、顎関節症がどのような状態なのか理解しておく必要があります。顎関節症は口を開く際に、顎関節や顎の周りの筋肉に痛みが出る、顎関節からカクンカクンといった音が鳴るなどの症状が出る状態です。
顎関節症は特に20代〜30代の人に多くみられ、男性よりも女性に多くみられます。
顎関節症の病気の状態は4つに分類されており、最も多いのは顎関節内にある「関節円板」という部分が前にずれることで「カクンカクン」という音が出る状態(顎関節雑音)、あるいはずれがもっと大きくなることで大きな口が開けられなくなる状態(開口障害)です。
重症になると口が開けられなくなり、話すことや食べる動作にも支障をきたしていくため、早めの対処が重要になります。
顎関節症でやってはいけないこと
顎関節症の人がやってはいけないことがいくつかあります。この症状がみられる方、または無意識にしてしまっている方は顎関節症が悪化する原因にもなりますので、早めに改善しましょう。
・関節周囲をむやみに動かす。わざと鳴らす
・大きな口を開ける
・片側だけでものを噛む
・顎に負担がかかる噛み方をする、頬杖など顎に負担がかかる姿勢をとる
・歯列接触癖(無意識に上下の歯を接触させる)TCH、ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)
顎の関節をわざと鳴らす
いろいろなところでこのことはお伝えしていますが、顎関節症の人は顎の関節が気になり、知らず知らずの間に顎を動かす人がいます。またそれと同じく指を鳴らすように顎の関節を鳴らしてしまう人がいますが、これは顎関節症を本当に酷くしてしまうので、止めることを強く推奨いたします。
「指が鳴るように顎も鳴らせると思っていた」という方も多いですが、大きな誤解ですので、やめた方がいいでしょう。
大きな口を開ける
これも顎関節症の人がよくやる悪習癖ですが、顎が気になるとどうも「ここまで開けると痛いんです。」と常に顎の痛みを確認してる人がおられます。これは塞がりつつある傷口を広げるようなものなので、痛みを確認するために大きな口を開けるのをやめましょう。お口が少ししか開かないのを大きく開くようにするために治療はしますが、そこを痛めては、いつまでも治りません。ここは誤解されないようにしてください。
片側だけでものを噛む
食事をする際に片側だけでものを噛む癖がある人は注意が必要です。これは噛み合わせがずれていてその方が噛みやすいのが原因です。
顎のバランスが崩れ顎関節症が悪化することがあります。顎関節症がある場合は、ご自身で気をつけて左右バランスよく噛むようにしても、噛み合わせがずれているのでなかなかそれができないのが現状です。
顎に負担がかかる姿勢をとり続ける
頬杖、枕に強く顎をつけて寝る(横向きやうつ伏せ寝)などが顎に負担がかかる姿勢です。
特にPCやスマホを長時間見る人が多くなった現代では猫背になっている人が多く、猫背になっていることで知らず知らずの間に顎や顎関節に負担がかかってしまっています。
普段から気をつけて姿勢をただす、頬杖をやめる、寝る向きを変えてみるなど対処してみましょう。
歯列接触癖(無意識に上下の歯を接触させる)
健康な状態、理想の状態は、私たちの上下の歯の間には隙間ができた状態(平常の安静時には上下の歯列間に1~3㎜の隙間)を保っています。これは口を閉じていても、上下の歯は接触していないということを表しています。
しかし、小さい頃に親から「口を閉じなさい」と強く言われたりした経験があると上下の歯は噛んでいないといけないと思い込んでしまっている人もいます。またストレスがかかっていたり、何かに集中している時に上下の歯を強く噛んでしまう、常に接触している状態が「歯列接触癖」です。TCHという言い方をすることもあります。
常に上下の歯が接触していると強い力が常に顎にかかることになり、顎関節症を悪化させる原因になります。
オフィスなどご自身が集中するスペースに付箋などをはり、その付箋が目に入った際には上下の歯が接触していないか確認して、接触している場合は離すように心がけましょう。
参考:神奈川県歯科医師会
ブラキシズム
ブラキシズムとは歯ぎしりや食いしばり、タッピングなどの総称になります。特に歯ぎしりは歯にかかる負担が大きく、睡眠時の歯ぎしりによって、50~100kgほどの力が歯にかかると言われています。
その分顎にも負担がかかりますので、ブラキシズムをしている方は早めに歯科医院でナイトガードなどのスプリント治療を受けることをおすすめします。
まとめ
顎関節症の方は、ほとんどの人が噛み合わせによるもので、あとは事故などの外傷から起こることがあります。いずれにしても、顎関節にあった正しい噛み合わせにならない限り、噛めば噛むほど顎関節に負担がかかってしまいます。
常に顎に負担をかけない生活をするには無理がありますが、それでもなるべく負担をかけないように心がける必要があります。強くぎゅっと噛まない、食いしばらない、歯ぎしりなどのブラキシズム、顎に負担がかかる姿勢などご自身で気をつけることが重要です。
健康なお口を保つためにも日頃から注意していきましょう。当院では顎関節症に悩む患者様の治療にも対応しています。放置しても歯がなくならない限り自然治癒は期待できないので、顎に違和感があるなど、些細なことでもいいので気軽にご相談ください。
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