執筆:歯科医師 河合良治
歯を失った後の治療法についてよく相談を受けるのでご紹介しておきます。
虫歯や歯周病で歯を失った場合に用いられる治療方法には、
インプラントやブリッジ、入れ歯といった方法があります。
- インプラント
- ブリッジ
- 入れ歯、義歯
今回は、欠損歯(無い歯)が少数の場合のパターンと仮定してお話しします。
この場合、義歯、いわゆる入れ歯を、ほとんど選択される方が少ないので少なめの紹介にしておきますが、歯型を取るだけで作れると言うのが特徴です。ただし、失った歯以外に床部分、歯肉部分が必要で実際に失った歯より大きいものになりますが、2~3回で完了します。
それ以外には、自分の歯とほとんど変わりなく使えるものにインプラントとブリッジがあげられます。入れ歯の床部分、歯肉部分がつきませんので、食事する際などに邪魔なものがなく、また動かないので違和感がないです。
ここで大体の方がこの二つで迷われるわけですが、
インプラントやブリッジ治療など、「聞いたことがあるけど詳しくはわからない」「どっちの方がいいの?」と疑問に思う方も多いかと思います。
インプラントとブリッジの違いについてメリット・デメリットを踏まえ、詳しく解説していきたいと思いますが、この考え方は一般的なものより、私たちの診療方針に基づく、再治療を防ぐため、生涯歯を残していくための考え方であると言うことはご理解ください。
目先の費用や通院回数などを優先するとまた選択がことなるわけです。
ブリッジとは
ブリッジとは、両サイドの残っている歯を削り(土台を作る)上から金属やセラミックなどの人工歯を被せ、失った歯の部分を補う治療方法になります。
残っている歯に橋を架けるような治療方法のため、ブリッジといわれています。噛み合わせ調整がうまくいけば、自身の歯とほぼ変わりなく噛むことが可能です。治療期間もケースによりますが、比較的短期間で終わります。
このブリッジ治療がいいか、悪いかと言うことは一概には言えません。
その適応によるからです。条件を満たせば予後は非常によい安定的な治療なのです。
※実際にインプラントとブリッジの条件を満たせば残存年数に際は差異はみられなかったという研究もあります。
どなたも治療を長持ちさせたいでしょうから、ここはしっかり考慮すべきポイントです。しっかりと条件を満たして治療すれば、そう壊れるものではありません。
ブリッジの治療をする際には、両脇の歯を削り土台のカタチにするわけですが、大体の場合はその横の歯もすでに治療済みのことが多く、それを取り換えるイメージで治療することはできます。
ただ、その歯が何のダメージもない健康な歯の場合は、それを削らないといけないということがありますが、これがデメリットかというとそこまでは言い切れません。多くの人が歯を長持ちさせたいわけですから、長持ちする条件を作ればいいわけです。
だから歯を削る=歯に悪いということでは無いのです。
条件が大切というのは、両脇の歯で負担できる力が限られているのです。
何本の欠損歯をブリッジで補うかによって、土台の歯の本数や土台の歯への負担が変わってくるからです。
この時に前歯であったり、奥歯であったりすると負担できる力、許容範囲は変わりますし、また神経があるか無いかでもまるで違うのです。
本来歯は噛む際に力がそれぞれの歯に均等に分担されますが、ブリッジの場合失った分の歯にかかる力も負担しなければならないのです。上の図であれば一本に1~2本分の負担がかかるという訳です。
そのため、歯を多く失っていると(無い歯が連続している)両脇の歯では支えきれずにブリッジ治療ができない場合があります。
つまり、診断と設計が最重要というわけです。
また、ブリッジは清掃の際にコツがいります。通常のブラッシングでは行き届かない部分をしっかりと手入れする必要があります。
審美性に関しては、ある程度要望に合わせて歯は作れます。
治療費は医院や材料にもよりますが、一本あたり約8~15万ほどです。(保険外治療の場合)
ポイント
両隣の歯の状態は? | 良い | 悪い |
欠損歯の本数は? | 少ない | 多い |
支える歯の部位は? | 前歯 | 奥歯 |
噛み合わせの力の状態は? | 弱い | 強い |
これらを考えて選択しましょう
メリット
- 自分の歯と同じように噛める
- 両臨在歯が治療済みなら、治療が容易
- 部位により予後が良好である
- 治療期間が短い(インプラントより)
- 手術が必要ない(インプラントと比較)
- 審美性の回復が期待できる
デメリット
- 設計が煩雑で歯科医の考える力、腕に左右される(歯科医の腕は設計も含めて選ぶ)
- 隣在歯が健康な歯の場合でも歯を削らなければならない
- 無理な設計だと支える歯にかかる力が大きくなりやすい
- 清掃にはコツがあり、不衛生になりやすい
インプラントとは
インプラントとは、骨内にチタン合金を埋め込む処置になります。(以降インプラント体)
人体は金属を異質物と認識し排出する作用が働くわけですが、このチタン合金は血液がなじみ、骨が包み込むのです。
インプラント体を直接骨に埋め込むことによって、自身の歯とほぼ変わりなく使うことができます。
厳密に言うと歯牙の場合には、歯根膜という膜が骨と歯との間に一層ありますが、インプラント体にはこの膜がありません。歯牙はこの膜のおかげで指で押したり噛んだりしたときに若干動きます。インプラントにはこの膜がないので、動きません。噛み合わせはドンピシャで合わせる必要があります。このことを考えて設計する必要があります。
インプラントの歯根はチタンであり、上にかぶせるものが人工歯のため虫歯になる恐れがありませんが、歯牙でいう歯周病にはなりますので、メンテナンスが欠かせません。本来の歯牙よりインプラントの方がいっきに歯周病が進みやすい傾向があるので注意が必要です。インプラント治療と術後のメンテナンスはセットとお考えください。
インプラントはお手入れ次第で感染のリスクが高くなるのです。インプラントの感染で気を付けなければならないのは、通常の歯周病より早く進行し骨を失ってしまい、インプラントを喪失してしまうからです。
術後は骨や人工歯などにトラブルがでないよう、定期的な検診が必要となります。
またインプラントは誰でもできるという訳ではなく、骨の退縮が進んでいる方や、持病をお持ちの方などは困難な処置になります。
審美性に関しては、ブリッジ程度の少数の欠損であれば、十分回復できますが、ある程度欠損が増えるとインプラントは骨のあるところに入れるので、一定の制限を受けます。それでも設計など充分に行えば、しっかりと回復できます。
手術ということになりますが、他の体の外科処置と違い適応にもよりますが、かなり狭い範囲で行うことも可能です。ブリッジと違い、両隣の歯がある場合にはその歯を処置しないですむのがメリットです。
手術が必要になるので個人差がありますが、術後は痛みがでたり、腫れたりするというデメリットもあります。
治療期間もブリッジと比べて長く、治療費も医院や設計によって異なりますが一本あたり約25~50万程度なることが多いです。
ポイント
口腔内に虫歯や歯周病は? | ない | ある |
骨の量は? | 多い | 少ない |
臨在歯の状態は? | よい | 悪い |
喫煙習慣は? | ない | ある |
メンテナンスで通院できるか? | 通える | 通えない |
メリット
- 自分の歯と同じように噛める
- 他の歯への噛む力の負担を減らせる
- 健康な歯を削らないで限局的に単独で処置できる。
- インプラントは虫歯にならない(歯周病にはなる)
- 設計次第では分解してメンテナンスが可能である。
デメリット
- 手術が必要(術後腫れや痛みがでることがある)
- 治療期間が長い
- 定期的な検診が必須
- 骨の量が少ないと治療が困難
- 感染し脱落のリスクがある(術中、インプラント周囲炎)
- 完全に保険がきかない処置である
以上がインプラントとブリッジの違いです。
インプラント治療であなたが真っ先に考えるべき点は、その歯だけでなく、お口全体への影響です。次のブリッジやインプラントをしないようにするために、どのようにリスクコントロールを考えて治療計画を作るかこれはあなたにとって最優先すべきことでしょう。虫歯や歯周病、噛み合わせをトータルで、こういったことをすべて考えて、自分に合った治療方法を主治医と相談し、あなたにとって最適な治療を選択されてください。